久しぶりに乗る電車は何かが起きる予感。
僕の乗り込んだ車両は特に混んでる訳でもなく椅子にはまだゆとりがあった。
ちょうど真ん中に腰掛けた僕の位置からは車両内全てが見渡せる。
向かい側には家族連れやカップル等実に様々。
その様子を見ていてふとある事に気が付いた。
1、一番両端の男性以外のその他全ての男が眼鏡をかけている。
2、まだ僕の向かいの真ん中の椅子に余裕がある。
これは…。
オセロ…!!
両角を白(ノーメガネ)にとられたが間を黒(メガネ)が埋め尽す。
且つ真ん中にスペースがあり両者一歩も譲れぬ状況。
白が入れば一列総取り、黒が入れば守りきり角の意味無し、だ。
この緊張感がしばらく続き、やがて電車は停まる。駅だ。
ぷしゅーっ
きたっ!!
鼓動は加速する。
カツンカツン。
ちらり
男っ!!
…メガネだーっ!!
そして僕の期待に答えそこへ腰を下ろす。
どっちを応援していた訳ではなかったがメガネが守りきったことに拍手喝采。
そして電車は何事もなかったかの様に次の駅へと走り出した。
またドアが開く。男性一名。
しかも今度はノーメガネ。
既に満足し気を緩めていた僕にはここで大どんでん返しが起きようとは予想もしなかった。
そう、まだ勝負はついていなかったのだ。
彼はまだギリギリになっていない「その列」に目をつけ、強引に入り込む。
いくら勝負といえど、詰めれば人一人くらい訳ない椅子を死守する輩はいない。
これが決定的な一打となり、その後乗り込んでくる男性はいなかった。
勝負は黒(メガネ)の完敗で幕を閉じた。
僕はしばらく呆然と窓から空を見上げた。
いつの間にか降りる駅が近付いている。
そろそろ行かなくちゃ。
いい闘いをありがとう。
そして白に挟まれた彼等に向けて心の中で思ったんだ。
黒全員、メガネ外せっ!!
てね。